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レゾナンスCafe Vol.023 地球時間を感じよう 開催報告

レゾナンスCafe Vol.023 地球時間を感じよう 開催報告

レゾナンスCafe Vol.023 地球時間を感じよう 開催報告

以下は平成30年7月11日(水)におこなわれたレゾナンスCafe Vol.023 地球時間を感じよう 開催報告です。

平成28年12月14日のレゾナンスCafe Vol.010 『宇宙と人間のレゾナンス』、そして平成30年5月9日におこなったレゾナンスCafe Vol.021「星々から地球へThink the Earthという視点」に引き続き、上田壮一さんに三度目の登壇をお願いしました。(Vol.010とVol.021の内容はそれぞれのリンク先で読むことができます。)

今回の話はアースウォッチの制作秘話ということで、宇宙の話から始まりました。オルカの研究者であるポール・スポング博士のネイチャーネットワークを手伝った話は前回されました。スポング博士に会ったとき「もし今の地球を観るために宇宙にカメラを置いたら素敵ではないか?」と思いました。あるとき友人と沢登りをしに行ったとき、その話をしたそうです。帰りの電車の中で「宇宙から見た地球がいまここにあったらいいね」と。

そのときは人ごとで、ただそんなものがあればいいなというつもりで話しただけでしたが、後日その友人が上田さんに、あるプロジェクトに参加しないか?と声をかけてきました。NTTの研究所に赴き、事業化できる研究を見つけ、プロトタイプまでつくってみよう、という話でした。担当者の一人が、外部のいろんな人を呼んで研究を見てもらい、考えてもらえばきっと面白いアイデアも出るだろうと考え、各界で活躍するクリエイターを集めました。そのなかに上田さんもいました。上田さんはそこでアースウォッチの話をして、企画書を作り、プロトタイプとしてワーキングモデルを作ることになったのです。

アースウォッチのアイデアにはこんな思いがあったそうです。それは、大学の卒業旅行でアフリカに行ったとき、ケニアとウガンダを回ったそうです。当時アフリカには腕時計は普及していませんでした。1000円程度の安い時計を日本で買ってお土産にすると誰でも喜んでくれたそうです。そんな状態だから誰も時間を守らない。多くの人が時計の指し示す時間を基準に生きてはいなかったのです。基準は目の前にある自然。たとえば、いつ雨が降るのかは空を見ればわかります。広い平原を見渡して、遠くの雨雲がこっちに来るかどうかを感じればいいのです。そして、しばらく観察すれば、いつ頃ここにやってくるのかもわかります。アフリカの人たちはそうやって生活していました。それを見て、「現代人は時間に縛られているな」と思ったとか。本来の生きものたちは「自然と身体がシンクロするリズム」を感じて生きています。機械で作られた時間と、いのちがシンクロするリズムとのズレが環境問題に結びついているのではないかと思ったそうです。

この旅行でケニアのモンバサからラム島へと船に乗りました。帰る日、出港時刻になってもなかなか出発しません。30分ほど遅れて出港しました。船が出てしばらくすると「乗せてくれ」と沿岸を人が走っています。「乗せてやろう」ということになり、港に戻ります。それでまた30分遅れます。上田さんは着いた先でバスに乗ることになっていました。一時間も遅れたらバスは行ってしまっただろうと思ったそうです。ところが、バスは船の到着を待っていました。「待っているんだ」と上田さんは感激しました。しかし、バスが着く先で乗るはずの電車にはまず乗れないだろうと考えました。ところがその電車も待っていてくれたのです。遅い人にあわせるから予定の時刻はどんどん遅れていきました。しかし、それで誰も困りません。みんな「遅れるもの」と思っているから。

帰って来て成田に着きました。京成電車に乗ろうとして、ぎりぎり発車時刻にホームに駆け降り、乗ろうとした電車のドアが目の前で閉まりました。「アフリカと東京、いったいどっちが良い社会なんだろう?」と思ったそうです。

そんな体験があったので、いのちのリズム、地球の時間を感じることのできる時計を作りたいと思ったそうです。それがのちのちアースウォッチにつながりました。

この話のあと、アースウォッチの実物を見せてもらいました。段ボール製の箱に入っていて、はじめの蓋を開けると、そこに小さな地球が顔をのぞかせます。

その小さな地球を手に取り、さらに蓋を開けていくと、いろんなものが出て来ました。

愛らしいパッケージに参加者はみんな歓声を上げます。なぜパッケージを段ボールにしたかというと、第一にクラフト感を出したかったということ。商品パッケージはほとんどの場合、捨てられてゴミになります。でも、開けたあともアースウォッチと一緒に保存しておきたいと思ってもらえるパッケージにしたかったそうです。パッケージ自体を時計のディスプレイとして使うことができるようにデザインされています。第二に時計のパッケージは耐久試験をクリアしなければなりません。70センチの高さから何百回落としても中の商品が壊れないものである必要があったそうです。積層の段ボールを使ったことで、この基準はクリアできたのです。

そして第三にアースウォッチを見てもあまり驚かない人がいるかもしれません。「ああ、地球の形をした腕時計ね」みたいに。そういう人をどうやってアースウォッチと向き合わせるのか。それがこのパッケージにした大きな要因だったといいます。

蓋を開けるとまず最初に腕時計ではなく、小さな地球に出会います。たいていの人はここで歓声を上げます。しかし、すべての人かどうかはわかりません。小さな地球を手に取ると、その下から続々といろんなものが出てきます。時計のベルト、地球を固定するためのベゼル、そしてデザインされたカード。出てきたカードは最初何のためなのかよくわかりません。よく見ると、地球や月の動き、季節の巡り、月から見た地球など、地球を中心としたさまざまな時の移り変わりをデザインしたものであることがわかります。そういう補助を得て、深くアースウォッチに向き合うことになるのです。そして最後に、ベゼルで小さな地球を固定するとき「カチッ」と音がします。この音がとても大切。商品製造の最後の仕上げを持ち主自身が行うことで、「自分のものになった」と実感できるのです。

上田さんにとってアースウォッチが初めてのプロダクトデザインとなりました。夢中で作ったそうです。これを作ると決めるとき、パートナーとなったセイコーインスツルメンツと協議するうちに「リスクをシェアする事業会社と社会貢献を行うNPOの設立が製品化の条件」ということになり、そのために自分の会社を設立することになったのです。それでできたのが株式会社スペースポート。同時に、アースウォッチの「ブランド」でもあり、事業で得た売上げの一部を還元して活動するNPOのThink The Earthも設立します。

アースウォッチはのちに携帯アプリになりました。KDDIがパートナーとなり、日本、アメリカ、ヨーロッパが持つ5つの気象衛星の画像を合成して雲の画像を作ったそうです。当時auから発売される携帯電話のほぼ全機種にプリセットされ、その後プリセット機種が減ってからも30〜50万ダウンロードされました。有料会員も最大3万人まで増え、収益の一部は自然災害被害者の支援を行う医療NPOなどに寄付しました。

地球のすべてをデータ化し、可視化しようとする人たちがいます。それはそれでいいことでしょう。けれども上田さんはそのアプローチにはあまり興味がないそうです。宇宙空間から地球を見るという行為が、人間の心に起こす変化にこそロマンを感じるから。「Look Back and Look Forward」に関わることが自分の興味だからと。

将来的にはプラネタリウムではなく、アースリウムという施設を作りたいそうです。それは宇宙飛行士の視点で、気候変動の様子や地震の分布、六億年の大陸移動や、大航海時代のコロンブスやマゼランの航跡、世界の覇権の歴史などが一目で分かるような施設だそうです。

このあと上田さんが制作した映像「いきものがたり」を見せてもらいました。音楽はディープフォレスト。ナレーションはUA。その予告編がこちらです。

最後に披露してもらったのは「百年の愚行」という大判の写真集。普及版という普通の大きさの本もあるのですが、歓声があがったのは大型本でした。アート作品として丁寧に仕上げられています。2002年度ニューヨークADC賞銀賞を受賞しました。

「地球環境に希望がもてますか?」という参加者からの質問に上田さんは「投資業界が変化してきているからこの10年は面白くなると思います」と答えました。利益だけを追求している会社には投資が集まらなくなっているといいます。かつてCSRという言葉はほとんど日本では語られることがありませんでした。でもいまでは当たり前のこととなっています。原発事故のあとに経産省が数百億円を助成し、日本の企業グループが福島県沖に浮体式洋上風力発電所をつくり、現在も実証実験を行っています。上田さんは取材に行き、震災後、わずか1年半で作り上げたジャイロで安定した海に浮かぶ発電・変電施設を見て感動し「企業が想いと技術を結集すれば、短期間に高い成果を上げられるのだ」と思ったそうです。金融機関が動くことで、これまで持続可能な社会については、それほど考えてこなかった業界も揺れ動き始めています。

このあと参加者たちと人類の未来について語り合いました。

上田さんの地球環境に対する真摯な姿勢と高いクリエイティビティにとても魅了された夜でした。

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